Lost

さて、気がついたら Lost Coast のダウンロードが終わっていたので、試しにやってみる。
Technology Showcase である、とあらかじめ断られているとおり、プレーを楽しむものではない。スタッフのコメントが入れられていたりして、あープレゼン用に作ったやつをもう少し作り込んでみんなが見れるように(揚げ足取られないように)したものなんだな、と思いながら起動してみる。
広々とした海を泳いでみようと思ったら、アロワナの化け物みたいな無数の魚に食われて死ぬことができた。


普段CS:Sプレー用(とはいってももう数ヶ月プレーしていないが)に使っているほうのPCでは数分でフリーズ。フリーズする前もカクカクしてHDR Onではまともに使えない。一方、ほぼマップ作成専用のOpteron275x2メモリ4GのほうではVGAの性能では一段劣るにもかかわらずHDRをOnにしても快適に動く。
いまどきの3Dゲーム事情で言うとVGAよりCPUがボトルネックになりやすいわけだが、その上さらにCPUに負担がかかるHDRを導入するという判断は、はたして妥当なのだろうか。仮にCS:SHDRを使用したマップを導入したとして、今現在でも映像の質を落としてFPSを稼いでいるくらいだから当然多くの人がOffにするだろう。


まあ、だからこそ、わざわざ Technology showcase だと断って小さなレベルひとつで済ませているのだろうが。


この Lost Coast、そもそもHalf-Life2の一部分として作られたが実際には盛り込まれなかったマップだとどこかで読んだ。HL2のマップを見ていくと番号が飛び飛びになっていて、抜けてるマップはどこに行ったのかかなり以前から気になっていたのだが、そのひとつが Lost Coast。
それでもまだ日の目を見ていないマップがいくつかある。見てみたい気もするが、つまらないからボツになったんだろうか。とりあえず Lost Coast 部分は崖の細い道を歩きながら敵に対応するのがFPSとしては面白みに欠けるからはずされたのかもしれない。


前にここで暗いマップは敬遠されると書いた。
なぜ嫌われるかといえば、現実世界では暗いなら暗いなりに何かが見えているものなのに結構すぐにまったく何も見えない暗闇になってしまうこと、さらに”暗闇”であるにもかかわらず、ディスプレーの”黒”部分は物理的に何らかの光を発しているわけで、目で光を感じているのに姿形は全然見えないという矛盾を無意識のうちに苦痛と感じているからだ、と自分は考えている。
要するにエンジンもハードも暗部のダイナミックレンジが狭いということだ。デジタルカメラでも似たようなことが性能を判断するひとつの基準になっていたりするから、それを参考に考えればわかりやすいかもしれない。
デジタルカメラなら、あー黒つぶれだ、と言って撮りなおすなりそのシーンはあきらめるなりして済ませることができるが、ゲームでは同じ場所で何度でも同じ不具合に遭遇するわけだし、見えないのではゲームにならないし、CS:Sの困った仕様として Night Vision を使っても本当の真っ暗闇では何も見えない(温度に相当するデータが別個に用意されているわけではなく単に色をいじっているに過ぎない)ため、プレーヤにストレスをかけてしまっている。


で、High Dynamic Range なHDRだが、結局は暗部で起こっていたこういう不都合が明部でも意図的に発生させられているわけだ。
明るいところで光の眩しさを再現しようとしてみても、それはRGB各チャンネルで高々256段階しかない色空間での努力であって、それ表示するディスプレーの明るさも照明器具の明るさに比べれば大分暗い。結果としてどうなるかといえば、実は大して明るくもないのに、暗部の黒とび同様、白とびして何も見えなくなってしまう。
HDRは瞳孔の開閉による見え方の変化をシミュレートしているつもりのようなので、これが普通に見えるためには瞳孔開きっぱなしがプレーヤとしての正しい姿勢なのかもしれない、などと考えながら歩き回っていた。


FPSというのは、反射神経を研ぎ澄ませて直感的にプレーしていくものであって、そういう中で上記のような事情で”見えなくなる”のは実に困った現象なのだ。
対人チームプレーのCS:Sにははっきりいって不要だ。


ネガティブなことばかり書いてきたが、映像表現としてはHDRは綺麗だと思う。Sourceエンジンの画作りはほかのエンジンとは一味違うが、それがさらに深みのあるものになったと思う。Half-Lifeにはもってこいの技術だろう。シングルプレーの場合、こういう形で美しく見せるのはありだと思う。特に建築物が引き立つ。


が、しかし、今までなら気にならなかった”普通”の部分がなんだか見劣りしてしまう、さらに目立ってしまう。モデルの造形やテクスチャの荒さ、Surface Prop やスモーク等のスプライトが常にプレーヤのほうを向いている不自然さ、キャラクターの動きの不自然さ、等々。
マップを作っている人間にとっては、当初からSourceエンジンの限界として感じてきたものは何一つ変わっていないわけだ。逆に、光の再現について今まで不満を持っていたマッパーは少ないだろうと思う。
物理エンジンの導入に続いてHDRの導入でさらにバランスが悪くなった、とか言われないことを祈る。