寒いし雨だし家に篭って調べ物 - 著作権ネタ

久々にまともな調べ物。
著作権分科会私的録音録画小委員会の議事録を中心にいろいろ読んでみた。
で、"違法サイト"という言葉の使い方を調べていたらいろいろ発見が。


一般的なイメージでは「違法コピー等の著作権侵害にあたるものが置いてあるサイト」という感じの認識だと思う。
さて、文化庁ではどういう意味で使っているのか。
文化庁にある文章で違法サイトという言葉が最初に出てくるのは、文化庁長官官房著作権課作成の『1999年12月 著作権審議会第1小委員会審議のまとめ』という文章
この前年に公衆送信権送信可能化権を新設した著作権法が施行され、違法コピーをダウンロード可能な状態にしておくことが明確に違法となったので、この時期に送信可能化権を侵害しているサイトを指して違法サイトというようになったのは当然のこと。
その後違法サイトという言葉はたまにしか現れないが、どれもこの意味で使われている。
で、去年始まった私的録音録画小委員会でこの言葉がやたらと連発されるようになる。
この委員会で何か言葉の意味が変わるような出来事があったのかと調べてみると、今年10月の会合で使われた参考資料3 私的録音録画小委員会中間整理(案)抜粋 (著作権分科会配付予定 同中間整理(案)より抜粋)の中で

ここでは、権利者に無断で著作物等が送信可能化された(利用者の求めに応じ自動的に送信できる状態のことをいう)サイトや個人のパソコン(サイトやパソコン自体が違法なわけではない)を便宜的に「違法サイト」という。

とはっきり定義が書かれている。
意味するところは最初と変わっていない。
この小委員会が始まる以前に他の委員会に属していた委員の発言から、過去にも違法サイトという言葉が何度も出ていたことも伺える。


さて、最初から一貫している用語の意味をなぜわざわざ資料に書き加えたのか、という疑問が出てくる。
逐一見ていくと、文化庁はもとより、法学研究者、デバイスメーカー等技術寄りの委員もみなこの意味で使っている。
残るはあいつとあいつらだ。
探してみると、あった。
著作権分科会 私的録音録画小委員会(第2回)配付資料 参考資料2 違法な携帯電話向け音楽配信に関するユーザーの利用実態調査
作成者を見ると、ああやっぱりあいつらね、と。
タイトルでググればこの調査結果が発表された時の記事がたくさん見つかると思うが、報じられた内容はでたらめと言っていいもので、無料ダウンロードサイト=違法サイトと位置づけ、しかもそれを被験者には知らせず誘導的な設問で結果を得、恣意的に解釈している。
いい加減なことを言って委員会の議論の方向なり結論を自分たちに有利なものにしようとしていたのは権利者サイドだった。
議事録を見ていくと、

バイスメーカー: ○○です。
権利者: 意味がわからない。
バイスメーカー: ○●△▲□■です。
権利者: わからないけど質問を終わります。

というふうな噴飯物のやり取りが出てきたりする。
権利者サイドは一貫して法律に関する知識も乏しくテクノロジーに関してはほとんど全く知らないような状態で委員会に出席していた。


議事録を読んでいると、権利者サイドはネット上でおびただしい数の著作物が"私的使用"されているのを見て「この分も補償金取れるんじゃね? うっは宝の山発見! がっつり稼げるぞぉ、よおし利権確保のためにがんばっちゃお」というノリで出てきている様に見えて仕方ない。
が、そもそも私的録音録画に絡んで補償金で辻褄を合わせるという制度が既にあり、その範囲をどうするかが問題になっている中で始まった

私的録音録画についての抜本的な見直し、及び補償金制度に関してもその廃止や骨組みの見直し、さらには他の措置の導入を視野に入れて抜本的な検討を行なうという、こういうものが前回の、昨年度の審議会の答申であります。これを元にこれから議論していただく

という小委員会でそんなことをしたらどうなるか、簡単に想像がつく。


そして先週先々週あたりの騒ぎ。
委員会の会合では必要な予備知識も持たずに出てきて他の委員の説明すら理解できず、恣意的な資料を出して委員会をその趣旨と真逆に向けようとし、挙句に公開質問状なるものを出してくる。
質問状を送りつけられたほうはブチ切れるに決まってる。
質問状を送ったのは権利者側の複数の委員が所属する"デジタル私的録画問題に関する権利者会議"という団体だが、この団体はWebサイトを持っていないようだ。デジタルリテラシは推して知るべし。


で、もう一方、津田氏。
ちょくちょく委員会の扱う範囲からはみ出していて、こんなんで大丈夫なのかと不安を感じたものの、他の委員が発言しやすくなったり現場に近い人間でないと見逃しかねない部分を指摘しているので悪くはないんだなぁと思ったが、第12回会合で全然違う数字を根拠に喋ってしまって、議事録公開後にSMEからクレームをつけられる事態になっている。
ジャーナリスト失格。
そして第13回会合では過去の委員会で結論に達したものを持ち出して「それは関係ない話だしもう議論済みだ」といわれ、ついにはほぼ妄想の世界に飛んでいって見当違いな架空請求の話をし始め、複数の出席者から関係ない話すんなという意味のことを結構はっきり言われてしまっている。
ITメディアの記事等を読んで、なんかおかしな事言ってるなぁと感じていたが、やっぱりおかしかった。


第15回会合終了後、違法サイトからのダウンロードがすべて違法になるというような論調で報じられているのを見かけたが、過去の報告書の内容を踏まえたうえで文化庁の担当者の発言を見た感じではそれは間違いだろう。
日本が1998年に送信可能化権等新設された権利を盛り込んだ著作権法を施行し、それに遅れること2年アメリカがDMCAを施行、さらに3年後、日本とアメリカの法改正が効果を上げられないことを踏まえてドイツで悪意による違法コピーのダウンロードを違法とする法改正を行っている。
文化庁はドイツでのその後の成り行きについて調査していて、ダウンロードを違法にしてもなお著作権侵害行為が減らないことを把握している。
ということはつまり、少なくともドイツと同程度まで厳しくする必要はある、という判断のようだ。
で、ドイツと同じようにするのであれば、送信可能化権侵害をしているサイトからの適法コンテンツのダウンロードは当然適法行為になるような制度設計になるはず。
第15回会合を終えた後の文化庁のコメントでも、ユーザーが著しく不利になるようなことはない、とあって、実際そのとおりだろうと思う。
制度設計上配慮するのは当然として、ヨーロッパでの著作権法改正と運用実績の分析に触れた文章で簡単に違法コンテンツの流通を阻止する方法はないと結論付けていることからもわかるように、具体的には、アメリカでのメタリカの訴訟の件がメタリカ側が訴訟を断念することで終結したり、ドイツでは法的にはダウンロードが違法になったにもかかわらず運用面ではこれを根拠に違反者を検挙することができない等の事情を鑑みて、仮に日本で著作権法を改正してより厳しいものにしても事態はほとんど変わらないということを重々承知の上での発言だ。
いわゆる違法サイトからのダウンロードが違法になる法改正が実際にされても、よほど悪質でない限りYouTube等の利用は従前どおり続けることができてしまうだろう。


実は補償金に関係した議論の中で、これ以外にも、法改正をしても事態が何も変わらないという認識に至ったものの、ダウンロード違法化とは逆に「意味無いなら変えない」という方向に進んだものがある。
レンタルCDからの私的録音だ。
"ツタヤからCD借りてきてリップしたりデジタルプレーヤーに移したりしたら違法化"議論があった。
もし私的使用の範囲からはずされるとなるとこっちのほうが多くの人にとってショッキングなんじゃないかと思うのだが、こっちは全然話題になってなかったと思う。


こうした補償金に絡んだ話が始まった経緯等々をまとめた資料が著作権分科会私的録音録画小委員会第1回会合の資料として提出されていて、簡潔にまとまっているし大多数の人が全く知らない購入時に補償金を払っている物一覧とか補償金の配分とかが書かれていてなかなか面白い。