日本常識は世界の非常識 - SIM Unlockの件

SIM Unlock をしたGSM/W-CDMAの端末を販売したり輸出した業者が摘発された、と。
著作権法違反で立件しようとしている、とかいう話を聞いて呆れた。



そもそもSIMカードを使う端末というのは、回線契約と端末購入が別個になっているのが普通だ。
回線契約で入手したSIMカードを自分の好きな端末にいれて使う。
そういう使用方法が基本なので、ひとつの端末に複数のSIMカードを入れて切り替えられるアダプタといったものもごく普通に売られている。
また、端末はユーザーが勝手に用意するものなので改造するのもごく普通のことで、特に東南アジアに行くと改造・装飾用のパーツがたくさん売られている。
そういう具合なので、当然次々に端末を買い換える人もいるし、当然中古市場も出てくる。しかし特定のキャリアでしか使えないようにロックされていては売れないので、ロックされていたらアンロックして売るわけだ。


さて、この件でボーダフォンは、毎月数億円の被害が出ている、と言っている。
元々携帯電話端末というのは結構高額の製造コストがかかっているものである。
しかし契約後の通話料・通信料で稼ぐことを前提に、端末を特定のキャリアでしか使えないようにし、端末販売店(回線の契約代理店)は高い価格で仕入れそれよりも安い価格で販売するものの、契約した回線数に応じてキャリアが販売店インセンティブを支払い差し引きで利益が出るようにする、というやり方で見かけ上の端末販売価格を抑えている。
ところがこうした端末を契約してすぐに解約しアンロックしてSIMフリー端末として売られてしまうと、インセンティブの根拠となっていた契約後の通話料・通信料収入が得られなくなる。
"被害"とは、無駄に払ってしまった補助金の額のことを言っていると推察される。
(ただし、この数億円という金額はテレビのニュース番組の取材によるもの。ボーダフォン側の応対の様子がなんともいい加減な印象だったので、もしかすると広報に正式に取材したものではないのかもしれず、金額も正確ではない可能性がある。)
ただし、回線契約後一定期間内に解約すると解約手数料を余計に取られるが、これを利用して歯止めにできないことも無いはず。


実はSIMカードが導入される前、PDC方式しかなかった頃も使用する周波数が同じならば他社の端末を使用して契約することができた。(IDO(当時)の端末をドコモ回線で使用、或いはその逆等)
ただ、こうしたやり方はある時期を境に契約を受け付けてもらえなくなった。
理由は今回と同じ。


フェアなやり方だとは思えない。
また、効率的だとも思えないし、競争に勝てる企業体質が培われるとも考えられない。
ナンバーポータビリティの導入に際して、露骨な外資(ボーダフォン)排除ともとれる動きがあった。
楽な商売方法は官民あげて徹底的に守る、ということだろうか。
金融分野では護送船団方式という言葉がかつて頻繁に使われたが、その類か。


で、そういうやり方をしてきた日本企業がどの程度の力をつけているのか。
ドコモは3Gへの世代交代に際して何を勘違いしたか世界進出乃至世界制覇の野望を見せたものの、わずか数年で海外事業から撤退、AT&T Wireless への出資に絡んで7000億円、ハチソンに絡んで1600億円の損失を出している。
次のチャンスを作り出したいと思ったのか間もなく4Gがどうのこうのと言い始めた。しかし2Gで大方事足りているのに世界がそんな話に関心を持つはずも無い。
i-modeを輸出とか、i-modeが世界最大のISPになったとかいう欺瞞に満ちたニュースが出てきたりもしたが、結局特殊な端末が必要なサービスは大きな広がりは見せなかった。
また、端末メーカーも一方的に世界シェアを減らし、特殊な方式を採らなかった韓国のメーカーが躍進していった。


PCを自作する人ならたいていの人が知っているASUStekとかGIGABYTE等のメーカーも携帯電話を作っているのだが、日本市場に参入する気配すら見せない。
歪んだ構造で雁字搦めになっている市場など馬鹿馬鹿しくて"高度"な企業で無ければ生き残れそうにないので参入しないのだ。


賢者は歴史に学ぶというが、自らの経験に学べないような連中をなんと呼べばいいだろうか。



で、技術的・法的に言って、SIMアンロックのどの辺が悪いんだろう。
キャリアのビジネスモデルが崩壊する、というのは理解できる。
が、そもそも簡単に崩れる欠陥を持ったビジネスモデルだったのではないか。
わかっていたからこそ日本独自規格のPDCを策定したときSIMに相当するカードを使わない方法を採ったのではないのか。
アンロックの作業自体は非常に簡単なものなのだから、SIMカードを使ったらこうなることは明々白々だったはず。
不正改造といわれているが、アンロックを不正とする根拠は何なのだろうか。